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ヴァンパイアってのは、全く因果な商売だ。
俺は待ち合わせ時間の遅れに舌打ちしつつ、フランス地方の高速道路を大型バイクで飛ばしていた。
今夜はクリスマス・イブだ。
毎年その日には会う約束のヤツがいる。
多分今夜も古城で待ってる。今だって、きっと待ってる。
バイクで結構な速度で走っているが、彼の住む城に着くのは深夜になるだろう。
俺はザヴィ。
ヴァンパイアとして生まれて400歳になる。
人間であった頃は、27歳の中世の傭兵だった。
21世紀の今では現代世界を放浪する、平凡なヴァンパイアだ。
俺の普段の装いは、スタンドカラーの黒い皮ジャケットにレザーパンツ、ブーツ。大型バイクの愛車に乗り、高速道路を飛ばす。
つり目気味の黒目。とがった短い黒髪。メタルなクロスのシルバーアクセサリー。両手には黒い革の手袋だ。
街の中にまぎれてしまえば、誰も俺がヴァンパイアだとは分からない。
普段は人並みに暮らし、人並みの旅をしている。
俺の特徴をズバリ言えば、一般人だ。
天才というわけでも、魔性の美貌というわけでもない。
金持ちというわけでも、狂気があるわけでもない。
変人・変態・変質者ぞろいのヴァンパイア仲間の中では、平凡過ぎて異端かもしれない。
普段は仲間に会うことは、めったにない。
それでもクリスマスの晩だけは、フランスのヴァンパイア仲間の居る城に帰るのが、俺の慣わしだった。
大型バイクで森の中の道をゆき、ひとけのない道路をひた走る。
仲間が待つはずの古城についたのは、クリスマス・イブの夜遅くだった。
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