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玄関に立っている俺の胸元で、エルが嬉しそうに声をあげる。
「ザヴィ! よく来てくれた!」
エルの外見年齢は16歳。だが本当は600歳ほどだろう。
まだ少年らしさのある顔。陶器のように白い肌に、薔薇色の頬。金細工のような巻き毛。ブルーグリーンの大きな瞳が、俺を見て輝いている。
服装が18世紀のままだ。フランス貴族の子弟か小姓と思うに違いない。
「ザヴィ、待ってたよ!! この一年、ずっと待ってたんだから! 今年はどこを旅してきたの?」
小さなエルの身体が、俺の両腕の中にすっぽり入る。
俺は小さく笑って、しばらくお互いに抱擁をした。
「北欧に行ってた。ノルウェイの方まで」
そう言ってあたりを見渡すと、いつもだったらいるはずの他の仲間がいなかった。
そこで俺は初めて、城にいるのはエルが一人だということに気が付いた。
大創造主であるジジイが居ない。
「ジジイの様子はどうだ?」
俺がエルに聞くと、彼は少しうつむいて答えた。
「まだ眠りについている。起きる気配はない」
うちの大創造主は枯れ木のような爺さんヴァンパイアで、棺の中で眠っていることが多い。
今はもう何年も、長い眠りについている。
一応、いつ目覚めてもいいように誰かが待機している。つまり、エルは大創造主の介護人だ。
少し笑って、俺はエルの頭を手で軽くなぜた。
「エル、ひとりで留守番なのか? 兄弟達はどうした?」
「んー、兄さんは街で美人を見つけたらしくて、ナンパしにいっちゃった。姉さんは合コンだって」
「貴族のダンスパーティか?」
「そうともいうね」
俺はひたいに手を当て、目をつぶると大きなため息をついた。
「しょうがねぇなぁ。一族がそろう日なのに」
「いいんだ。ザヴィが来てくれたから」
基本的に、ヴァンパイアは孤独を好む。そのくせ淋しがりやで、本当に一人にしておいたら、いつの間にかこっそり死んでいる。
ヴァンパイアとは天才肌の、繊細な生き物なのだ。
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