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城に入った俺は、荷物を別の部屋に下ろした。
その後、エルを前にして階段を下り、地下室に案内された。
レンガとしっくいで作られた螺旋階段が、暗い地下に続いている。
ろうそくの明かりを片手に、上機嫌なエルの歌が前から聞こえてきた。『手のひらを太陽に』を機嫌よく歌っている。
地下室についたエルは、勢いよく扉を開き、俺を部屋に入れた。
部屋の中は真っ暗だった。
ろうそくに照らされ、いくつもの棚に見えるのは、ずらりと並んだ指。指。指。
液体で満たしたガラス瓶の中にそれぞれ入っていて、軽く千本はあるだろう。
(うわ、怖い)
俺は内心ドン引いていた。
エルは自分が血を吸った後の、亡くなった犠牲者の指を集めるのが趣味だ。
ヴァンパイア仲間に変態は多いが、こいつは「まあまあおかしい」の部類に入る。
兄や姉は恋愛と拷問が得意なのだから、エルの死体を盗む性癖やネクロフィリア(死体愛好)は、害の無い範囲だろう。
エルは自分の変態コレクションルームを俺に見せて、生き生きとしていた。
いくつものガラス瓶を取り出してくる。
「どうだい! 僕の指コレクションは! これは魔女のシェラ。これは死刑囚のジモード。こっちは女優のミラ…」
「あ、ああ…」
血の気が引いた俺はドン引きしながら、空返事をした。この部屋の薬品の匂いと、異様な空気は嫌いだ。
早々にこの部屋を出たかったが、戻ろうとしたときに、エルが俺の右手を掴んだ。
俺の手を自分の頬にすり寄せ、瞳を閉じて夢見がちに言う。
「いつか君の指も僕のコレクションに加えたいものだ…。そのときは水晶の箱に入れて、オイルも上質のオリーブオイルをたらすんだ…いつまでも大事にするよ…眠るときも一緒だ…」
エルはうっとりと悦に入っている。
「断る!」
断固として俺は言い、エルの手から、自分の手を引きぬいた。
エルは泣きそうになった。大きな両の瞳が、うるうると涙でうるんでいる。
泣くのを我慢しながら、俺の服のすそを両手で握りしめた。
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