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貴族の洋館にて
「真衣さま、お目覚めですか?」
メイド服を着た可愛らしい少女が心配そうにこちらを覗き込んでいる。
またもやコスプレ?どうなってるの?しかも真衣さま?「さま」って呼ばれたの、初めてだよ。わたしは混乱しすぎて、逆に少し冷静になってきた。とりあえずは状況を把握しなくては。記憶喪失のフリをして、この少女から話を聞いてみよう。
「心配かけてごめんなさい。私なんだか頭がボンヤリしてしまって、何にもわからなくなってしまったみたいなの。あなたの名前を教えていただけるかしら?」
お姫さまが眠るようなベッドに寝かされていると言葉遣いも丁寧になってしまう。素敵な調度品で飾られた部屋はまるで貴族の住む洋館の一室のようだ。
「真衣さま、わたしのことをお忘れですか?ハナでございますよ。真衣さまが、この家に花嫁候補として入られるときにご実家からご一緒した侍女ですよ。」
侍女?!いつの時代の話だ。侍女って本当に存在したの?
「じゃあ、私の婚約者の名前は?」
ハナはびっくりしたような顔をした後、さめざめと泣き始めた。
「真衣さま、そんなこともお忘れなんて、一体何があったんでしょうか?」
ハナはひとしきり泣いた後、ポツリポツリとわたしについて教えてくれた。
ハナの話によると、婚約者の名前は赤木英臣。赤木伯爵の甥にあたる。赤木伯爵には子どもがいなかったため、妹の末の息子を養子にした。
ここで伯爵?と思ったけど、スルーすることにした。いちいち立ち止まっていては話が進まない。
そしてわたしは青井子爵の令嬢らしい。しかも家族が列車事故で全て亡くなり、天涯孤独らしい。
当主を失った青井家が存続の危機にあると知った赤木伯爵が、養子の英臣の許嫁として、わたしを一年前にこの館に引き取ってくれたということだ。
そして驚くことに、英臣とわたしは相思相愛で大変仲睦まじいお似合いの二人らしい。
初めて会った人と婚約していて、しかもラブラブなんて、もうどうしていいか分からない。恥ずかしい。恥ずかしすぎて、死んじゃいそうだ。
するとねらったようなタイミングで、ノックの音が聞こえた。
返事をしようと顔を上げると、静かにドアが開き、心配そうな英臣の顔が覗いた。
「真衣、大丈夫か?どうしちゃったんだよ。」
英臣はわたしの顔をジッと見つめている。心なしか顔が赤いような?なぜか部屋に入るのを躊躇っているようだ。
さっき初めて会った人だけど、婚約者で相思相愛なんだから、あまり素っ気ないのも変だよね。
英臣に、にっこりと微笑むと、英臣は子犬のように部屋に飛び込んできた。
そして、わたしのベッドに顔を伏せると、大きなため息をついた。
シッポがあったらちぎれるほど、振っていそうな勢いだ。なんだかちょっとかわいいかも。
「あーっ、ホッとした。真衣、俺のこと思い出したんだね。真衣がいなくなっちゃいそうで、不安でたまらなかったんだよ。」
英臣はわたしを強く抱きしめると、おでこに軽くキスして、飛ぶように部屋から出て行った。そして一言。
「真衣、今日の晩餐会は出なくていいからね。部屋に食事を運ばせるよ。」
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