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Prologue
自宅に帰ってきた彼は、それが日課であるかのように、自然な流れでパソコンを起動させ、音楽をかける。
大好きな"彼女"の歌声
それはいつ聴いても
何度聴いても
変わらず心を打つ
彼は聞こえくる彼女の声に重ねる様に、優しく口ずさみながらベランダに出た。
10月中旬
昼間は秋など感じさせない位の暑い日もあるが、やはり夜になれば多少の肌寒さは感じる。
彼の住む東京都内のマンションから周りを見渡すと、夜でも多く走る車のヘッドライトや店の明かり。
眠らない街とはよく言ったもんだ。
そんな光景をボーッと眺めながら、彼は"彼女"に想いを馳せる。
どれだけの時間を過ごしても
決して色褪せない想い
溢れかえる愛情に幸せを感じながら、それでも時折、何かを思うように顔を歪める。
「明日、喜んでくれたらええなぁ」
小さく小さく呟いたその声は、風に乗り空へ消えていく。
彼は部屋に戻ると、ソファに腰を落とした。
部屋を包み込む彼女の歌声に耳を傾け、静かに目を閉じる。
そして、彼の記憶は"あの頃"へと戻っていった。
それは、彼が彼女と出会った16年程前-
彼が25歳になったばかりの頃だった。
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