Prologue

1/1
64人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ

Prologue

自宅に帰ってきた彼は、それが日課であるかのように、自然な流れでパソコンを起動させ、音楽をかける。 大好きな"彼女"の歌声 それはいつ聴いても 何度聴いても 変わらず心を打つ 彼は聞こえくる彼女の声に重ねる様に、優しく口ずさみながらベランダに出た。 10月中旬 昼間は秋など感じさせない位の暑い日もあるが、やはり夜になれば多少の肌寒さは感じる。 彼の住む東京都内のマンションから周りを見渡すと、夜でも多く走る車のヘッドライトや店の明かり。 眠らない街とはよく言ったもんだ。 そんな光景をボーッと眺めながら、彼は"彼女"に想いを馳せる。 どれだけの時間を過ごしても 決して色褪せない想い 溢れかえる愛情に幸せを感じながら、それでも時折、何かを思うように顔を歪める。 「明日、喜んでくれたらええなぁ」 小さく小さく呟いたその声は、風に乗り空へ消えていく。 彼は部屋に戻ると、ソファに腰を落とした。 部屋を包み込む彼女の歌声に耳を傾け、静かに目を閉じる。 そして、彼の記憶は"あの頃"へと戻っていった。 それは、彼が彼女と出会った16年程前- 彼が25歳になったばかりの頃だった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!