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いつだって待ち合わせは十五分前。一分と遅れたら機嫌を損ねる。待ち合わせの時刻には間に合っているのに。そしていつでも予定は綿密に立ててからデートに臨む。次はどこに行くの? の言葉に躓いたらそこでアウト、また機嫌は急降下する。
今日も可愛いね、その服すごく似合ってるよ。そんな言葉は当たり前に出てこなければならない。しかし周りからハードルが高すぎて無理と言われるけれど、自分はそこまで気にしていなかった。
そんな相手とも付き合ってもうすぐで三年になる。ここまで来るとあしらい方を学ぶというか、うまく転がして機嫌を取ることを覚えていく。ご機嫌のツボはわりと単純でわかりやすいので、そこを押し間違えなければ問題ないのだ。
「詠斗、喉渇いた」
「喉が渇いたなら冷たいのでいいか?」
「うん、あー、でもあれがいい」
振り返った小さな顔に頭の中でここ最近のお気に入りが浮かび上がる。が、気がそれたのかふいに指先を伸ばして道の向こうを示された。指し示されるままに視線を動かせば、コールドからはほど遠いホットジンジャーココア、クリーム添え。
パチパチと瞬くココア色の瞳が期待に満ちた色を見せる。それに応えるべく足を踏み出すけれど、一度振り返って確認を忘れるべからず。
「なにか食べたいものは?」
「んー、クッキー、あ、いや、カップケーキ」
「オーケー、そこで待ってて」
優柔不断なところが大いにあるのでここはクッキーとカップケーキ両方だ。向かう先は彼が気に入ってる店だから好みも大体わかる。待たせすぎてもいけないので足早に店へと急いだ。
わりと混んでいる店だが今日は運良くさほど並んでいない。
「クリーム多めでチョコソースもトッピングしてください」
「かしこまりました」
飲み物を待つあいだにスマホを確認した。一緒にいる時はよそ見ができないのでこういう空き時間は貴重だ。けれど画面に落としていた視線を外へと向ければ、待ち人は二人連れの男にナンパされている。
予想外の展開にどうするべきかと思いはしたが、初めてのことでもないのでさほど慌てる場面ではない。小柄で線が細くて目がぱっちりしていて、髪がショートボブなので女の子に間違われやすいのだ。
それを自分でもわかっていて思わせぶりな反応を返して楽しんでいるのだから、相手が気の毒とも言える。
「瑞樹、お待たせ」
「遅いよ」
「ごめん、それより誰? 知り合い?」
「全然知らない」
飲み物と紙袋を手に彼の元へと戻れば、ふいにばっさりと会話を打ち切られた相手はこちらを見て気まずそうな顔をした。自分は彼とは真逆の容姿だから少しばかり威圧感があるのだろう。
顔を見合わせてなにやらよくわからない言い訳をしながらすごすごと立ち去っていく。喧嘩は得意ではないので後腐れのない感じの相手で助かった。
「熱いから気をつけて」
「わぁ、クリームいっぱい」
「……瑞樹は、もしかして俺のこと試してる?」
「なにを?」
「知らない人にいい顔するの、結構あからさまだけど」
スプーンでクリームを掬ってご機嫌で頬ばる横顔にちらりと目を向けると、きょとんとした表情と一緒に長いまつげが瞬く。そしてさらにこてんと首を傾げて、じっとこちらを見上げてくる。
うん、これはなにも考えていない。深い意味があってのことではないようだ。
「へぇ、詠斗でもヤキモチ妬くんだ」
「ヤキモチというか、どういうつもりなのかと思っただけ」
「ん? それって僕の気持ちは大して気にしてないってこと?」
「そういうわけじゃない。だけどあんまりあんな態度を取るのは良くないと思うからやめておきなよ」
いままでトラブルになったことはないけれど、厄介な相手にもし当たったら大変だ。難癖を付けられるだけならまだいいが、暴力を振るわれるようなことになったら困る。身体の大きな見た目に寄ることなく、こちらは腕っ節が弱いので対するのが難しい。
彼は華奢な体型に寄らず力は強いけれど、体格差というものがある。
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