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春一の傍らに、伺うように立つ秋哉に、
「たまの家なんだ。座ってろ」
春一は皿を洗いながら顔もあげずに言う。
「……だって」
「なんだ?」
「オレだけ、なんもできねーってのは、ちょっと……」
この家の主役は、いつの間にかすっかり潤になっていて、すべてが潤を中心に回っている。
春一や鈴音だけでなく、夏樹やカズエまで、潤が一番だ。
別にヤキモチを妬いているわけではないが、潤に嫌われている秋哉は、すっかり所在がない。
それが少しだけ悔しくて、寂しくて、
「スズネもアレだな。ぜんぜん変わっちまったんだな」
「変わった?」
「うん。昔のスズネだったらハルに皿洗いなんか頼まなかっただろう。ハルもすっかりスズネの尻に敷かれちまったなー」
からかうようにニシシと笑うと、
「秋哉」
低い声で名前を呼ばれて、ピャッと背筋が伸びた。
久しぶりに聞く、春一の怒った声。
「なんだよ、ジョーダンじゃねーか」
小声で言い訳を試みる秋哉にかぶせるように、
「皿洗いなんかなんて言うな。俺がやってるのは、この家の仕事だ。鈴音の仕事ってわけじゃない」
「……」
「昔は確かに俺は鈴音に甘えっぱなしだったかもしれない。
でも家の仕事ってやつは細かくて毎日あって大変なんだ。だから鈴音やカズエさんが家事をやって当り前なんて考えなら、俺は怒るぞ」
「……もう怒ってるじゃんか」
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