83人が本棚に入れています
本棚に追加
春一はいきなり、
「カズエさんにプロポーズするんだろう」
「えっ!」
秋哉は絶句する。
「な、なんで、それ……」
声を失う秋哉に、
「見てればわかるさ。本来なら、帰ってくる前にプロポーズして、みんなにお披露目ってつもりだったんだろうけど、うまくいかなかったようだな」
春一はクスクス笑うが、笑い事じゃない。
春一の言うとおり、カズエをプロポーズの予定のレストランに意気込んで誘ったら、
「何いってんの? 鈴音さんが家でご飯作って待ってるんでしょ」
断られた。
まさかの、プロポーズする以前の問題だ。
秋哉の計画はすべて台無し。
こんなことなら、レストランの予約を、サプライズでなんかするんじゃなかった。
最初からちゃんと、スケジュールを話しておけばよかった。
「間が悪いのは、俺に似たんだ秋哉」
春一が秋哉の肩を叩きながら言う。
「俺もなかなか鈴音にプロポーズ出来なくて、夏樹に散々マヌケ呼ばわりされたからな」
「……」
慰めになっていない。
でも、
「潤を寝かせるために、みんな一旦部屋に下がるから、その時がんばれ。で、新年のあいさつで嬉しい報告を聞かせてくれればいい」
「……みんなで、行く年来る年見るんじゃねーのかよ」
来生家の年越しはいつもそうだった。
しかし春一は、
「今夜は、俺も鈴音も、早めに部屋に引っ込むよ。年が明けるまで、ひと寝入りするって言ってな」
それからチラと、潤とじゃれ合っている夏樹を振り返って、
「夏樹のことは潤が離さない。夏樹がこの家に泊まる夜はいつも一緒に寝てるからな」
心底気に食わない顔で言った。
最初のコメントを投稿しよう!