83人が本棚に入れています
本棚に追加
さて、リビングには秋哉とカズエだけが残された。
自分たちも部屋へ、と思わなくもなかったが、カズエの荷物が当り前のように秋哉の部屋に運び込まれているので、何となく恥ずかしい。
「いくら何でも、みんながいる家では、なぁ」
秋哉は知らなかったが、実はカズエはしょっちゅう来生家に泊まりに来ていて、その時使っているのが秋哉の部屋だ。
春一たちにとっては、カズエが寝る部屋は秋哉の部屋に決まっているので、特別でも何もない。
もちろん今夜は、秋哉用にと昔使っていた簡易ベッドが運び込まれている。
カズエは、いつもなんだかんだと仲良くリビングに集まっている来生家のみんなが、まるで潮を退くように部屋に下がったことを、少し怪訝に思っているようだ。
「春一さん、疲れてるのかな。最近忙しそうだったしね」
秋哉よりもよっぽど知ったような口を利くカズエの肩を、秋哉はグイと掴んで引き寄せる。
真正面からカズエと向き合った。
そしてカズエに、
「――カズ、オレとけっ――」
言いかけたら、
「痛っ!」
カズエが悲鳴をあげる。
キツく眉をしかめている。
「うわっごめんカズ。だいじょーぶか」
どうやら力が入りすぎて、掴む力を間違えたらしい。
慌てる秋哉にカズエは顔をしかめながら、
「ヘーキよ、でも乱暴しないで」
「……うん、ごめん」
秋哉はシュンとうなだれる。
最初のコメントを投稿しよう!