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カズエは、
「どうしたの、そんなに慌てちゃって。またお腹でもすいてきた? お蕎麦でもゆでようか」
いらないと断ってしまえば、次に訪れる沈黙が怖くて、秋哉は仕方なく、
「うん」
とうなずく。
春一が言った、
「間が悪いのは、俺に似たんだ秋哉」
の言葉が今さら頭に甦ってくる。
『なにも似るならそこじゃなくていいのに』
秋哉は恨めしくて仕方がない。
いつも泰然と落ち着いているところとか、統率力があるところとか、秋哉が目標としている春一の背中はいくらでもある。
だがひとつ、今日教えてもらったことがある。
「家ってのは家族みんなで作っていくものだろう。だれかひとりで負うものじゃないよ」
春一の後悔。
だから秋哉は申し出る。
「オレが作るよカズ」
「え?」
「カップメンでも良ければ、だけどな」
ずっと、自分だけで秘密を抱えていた春一は、それを黙っていたことが誤りだったと今では認めている。
春一にそう教えた中には秋哉だっていたはずなのに、なぜだか、ふと忘れてしまうのだ。
「失いたくないなら全員で大切にしていくんだぞ」
春一の言葉がなくても、ちゃんと大切にしていかなきゃいけない。
日々をおくる何気ない日常の中にこそ、大切なものは存在している。
カズエは、
「お正月なのにカップメンって……」
少し呆れたようだが、いつにない秋哉の真剣な顔に何かを感じたのか、
「……じゃあ、お願いしようかな」
椅子を引いて腰かけた。
「ああ、任せとけよ」
秋哉は言って、ヤカンを火にかける。
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