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1月3日。
翌日から勤務が始まってしまう秋哉は、渋々といった顔でブーツに足を入れている。
でも踵を入れきる前に、
「なぁ、やっぱり有休申請するから、もうちょっと具体的な話」
顔をあげて未練たらしく言いつのるが、
「なにバカなこと言ってんの。アキの仕事は国防なんだよ。こんな私事でいちいち休んでどーするの」
カズエに尻を叩かれてしまう。
思わずバランスを崩して、そのままケンケンと前に出た。
「あっぶねーな」
何とか体勢を立て直して愚痴ると、
「だいたいアキは大騒ぎしすぎなのよ」
カズエは腰に手を当て、まったく仕方がない、という感じで言い捨てる。
「ホント恥ずかしいったら」
実はプロポーズをOKしてもらったとたん、秋哉は飛び上がって喜んで、そのままの勢いで春一の部屋のドア押し開けた。
もちろんノックもなしにだ。
「聞いてくれ。カズがプロポーズOKしてくれた!」
高らかに宣言したわけだが、当然、春一の部屋には鈴音がいる。
秋哉の突撃に、ふたりはベッドから転がり落ちるほど驚いて、
「――」
春一は慌てふためいて服を探し始めるし、鈴音なんて毛布を頭からかぶって丸まってしまった。
ケンケンしながらズボンを履く春一に、
「ハル、オレはカズと結婚するからな」
秋哉はまったく気づく様子もなく、嬉々として報告している。
「……」
なぜ、この空気に気づかないのだろう。
離れて見ているカズエだって、いたたまれなさすぎて、顔もあげられない。
一体、どのタイミングで踏み込んでしまったと思っているのか。
それでも秋哉はまったく気にしないで、興奮した調子で春一に、
「やったよオレ。マジでホッとした」
話し続けている。
春一は苦笑いで済ませてくれたが、この恐るべき秋哉のデリカシーのなさには、もう呆れかえってしまった。
お陰でカズエの方は、すっかりご立腹なわけだ。
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