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IF 鈴音が兄弟たちと同じ高校だったら
「……も良く、環境のいい場所で生徒たちを――」
教頭を名乗った先生がしてくる世間話を、鈴音はほとんど聞いていなかった。
まあもともと、鈴音の前を歩く母親に向けられたお愛想だから、鈴音が聞いていなくてもなんら問題はない。
それより、
『……暑い』
鈴音がこれまで暮らしていた北海道とは、比べものにならないくらいの暑さだ。
気温だけなら北海道だってそれなりに暑くなることもあるが、耐えられないのはこの湿度。
こちらの7月の半ばは、まだ梅雨の気配が色濃く、とにかく蒸し暑い。
正式に転校してくるのは二学期が始まってからで、今回は下見だけとはいえ、この暑さは本当にこたえた。
ブラウスの内側を伝い流れる汗も不快だし、今日は体調もいまいちで気分が悪い。
早くクーラーの効いた校長室につかないかと重い足を引きずっていると、
「危ない、よけてっ!」
しかし鈴音はボーッとしている。
見知った者もいない、こんな初めて来た場所で、自分に言われていることだとは思わなかったのだ。
と、
――ドン!
いきなりの日陰。
そしてふわりと舞った風。
誰かが、鈴音の目の前に飛び込んできた。
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