IF 鈴音が兄弟たちと同じ高校だったら

1/45
前へ
/172ページ
次へ

IF 鈴音が兄弟たちと同じ高校だったら

「……も良く、環境のいい場所で生徒たちを――」 教頭を名乗った先生がしてくる世間話を、鈴音はほとんど聞いていなかった。 まあもともと、鈴音の前を歩く母親に向けられたお愛想だから、鈴音が聞いていなくてもなんら問題はない。 それより、 『……暑い』 鈴音がこれまで暮らしていた北海道とは、比べものにならないくらいの暑さだ。 気温だけなら北海道だってそれなりに暑くなることもあるが、耐えられないのはこの湿度。 こちらの7月の半ばは、まだ梅雨の気配が色濃く、とにかく蒸し暑い。 正式に転校してくるのは二学期が始まってからで、今回は下見だけとはいえ、この暑さは本当にこたえた。 ブラウスの内側を伝い流れる汗も不快だし、今日は体調もいまいちで気分が悪い。 早くクーラーの効いた校長室につかないかと重い足を引きずっていると、 「危ない、よけてっ!」 しかし鈴音はボーッとしている。 見知った者もいない、こんな初めて来た場所で、自分に言われていることだとは思わなかったのだ。 と、 ――ドン! いきなりの日陰。 そしてふわりと舞った風。 誰かが、鈴音の目の前に飛び込んできた。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加