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『センパイかな。でもなんで一年棟に?』
男は、ボーッと眺める鈴音の前まで歩いてきて、そしてピタリと足を止める。
「――」
そしてまじまじと鈴音のことを見下ろしてきた。
正面から目が合って、鈴音は思わず、
「ヘラッ」
愛想笑いをしてしまう。
仕方がない。
凡人の性だ。
こんなファッション誌のトップを飾るようなイケメンに見つめられて、平常心でいられるほど、鈴音はイケメンに慣れていない。
すると、赤髪の男はふと薄い唇を開く。
「てめぇか、春に色目つかったっていう転校生は」
「……へ?」
ワケがわからなくて、マヌケな声が出た。
男は、
「いい気になってんじゃねーぞ」
吐き捨てるように言うと、
「どけよ」
乱暴に鈴音の肩を押す。
鈴音がバランスを崩して後ずさると、男は目の前の教室のドアを無造作に開けた。
「――え?」
男の背中越しに担任の先生が見える。
「来生、遅刻だぞ」
出席簿を振り上げて怒っている。
そして、驚きの表情で固まる鈴音を教室に招き入れると、
「みんな転校生を紹介する。今日転校してきた雨山鈴音さんだ」
男は我関せずといった感じで気だるそうに机の間を歩いて、一番後ろの席の椅子をひいて座った。
「――え?」
まさかあの人、同じクラス!?
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