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クラスメートの視線を一身に浴びながら、鈴音はなんとかドアのところにたどり着く。
「な、なんの用でしょうか」
声を震わせる鈴音に、来生春一は穏やかな微笑みを浮かべて、
「いや、体は大丈夫なのかなと思って」
「体?」
「うん、前に会った時、倒れちゃっただろう」
なるほど、夏休み前に倒れた鈴音を心配して、わざわざ様子を見に来てくれたらしい。
「一年生にも親切で優しい」
誰かが言っていた言葉が頭をよぎる。
「すみません。平気です」
それから鈴音ははっと思い出して、
「あの時は助けていただいて、本当にありがとうございました」
気がついたら保健室に寝かされていて、あの後ろくにお礼も言えなかった。
今さらながら頭を下げる鈴音に、春一は、
「いいや、元気ならいいんだ」
しかし少し眉を潜めて、
「でもあまり無理はしない方がいい。今もまだ本調子じゃないんだろう」
「え?」
「歩き方が変だったから」
「……」
どうやらテンパったあまり、右手と右足が同時に出ていたらしい。
鈴音は頬をカッと赤くして、
「ホント平気です。ちょっと緊張しただけですから」
「緊張?」
「ええ、あまり注目されるのに慣れていなくて」
そこでやっと春一は、自分がクラス中の視線を集めてしまっていることに気がついた。
頭をかきながら、
「参ったな。迷惑をかけるつもりじゃなかったんだけど」
「……いえ迷惑だなんて」
「夏樹にも気をつけろって言われてたのにな」
「え?」
「いいや、なんでもない」
春一は首を振ると、
「元気なら良かった」
と言って、手をあげて帰っていった。
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