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プロローグ
結露で汗ばんだ窓ガラスは吹きすさぶ冷風に叩かれ、悲鳴をあげるように軋んでいる。
冷え切った病室の中、風間 俊介は松下 倫太郎の目前に立ちはだかり、躊躇なく胸ぐらを掴んだ。
「……おい、何のつもりだ、風間」
精悍な顔つきの倫太郎は、肉食動物のような鋭い眼光で俊介を見据えていう。
「松下、お前、綾を傷つけておいて、今さら何ノコノコ現れてやがるんだ! すぐに消えろ!」
怒りを抑えることができない俊介は、力強く拳を握りしめた。
――綾、本当はこいつのこと、今でも憎んでいるんだろう? 僕がきっちり落とし前をつけるから見ていろよ。
一触即発の二人の隣には、ベッドに横たわり、やわらかな無色のシーツに包まれている鳥海 綾の姿がある。俊介の同級生であり、幼馴染でもある綾は、ただ、夢の世界を彷徨っているだけのように見える。
けれど、その肌は病室の薄明りの中、幻想的な淡いライムイエローの光を放っていた。 さらに綾の顔立ちは、高校卒業から四年以上経ったというのに、いまだに稚く見えた。
聞いた通りの、「天使症候群」の症状だった。
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