エピローグ

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 5月8日に再び回転木馬を受け取った倫太郎は、成宮に嵌められた一日をやり直そうと決意した。  屋上で追い詰められた生徒を助ける前に、一部始終を記録してくれる味方を探すことにしたのだ。  けれども、頼める友人はいなかったし、その時点では俊介たちとはまだ知り合っていなかった。弥生を男同士のいざこざに関わらせるのは危険だ。その場で何をされるか知れたものではない。  そこで浮かんだのが、自分と同じように外れものとして扱われている男の顔だった。教師の更木だ。  倫太郎は更木に協力を要請したところ、二つ返事で承諾してくれた。 「あいつは悪い噂があるから、ここで一つ手を打っとかないとな」と言っていたので、成宮をひいきしない数少ない教師なのだと信じられた。  そして成宮の策略は不発に終わり、手下だったチンピラ学生の証言により成宮の裏の顔が明らかになった。すると成宮は教師たちと結託し、全校生徒集会で弁明を図った。  しかし、更木がその場で「嘘で真実を隠すのが聖職者の仕事か!」と教師陣を一喝したため集会は騒然となった。  それを機に被害者たちが続々と声をあげ、成宮の悪事が露呈することになった。警察沙汰にまで発展し、成宮は追い込まれ、もはや悪事を働くことができなくなったのだ。  そして倫太郎は何事もなかったかのように部活を続け、スポーツ推薦で大学へ進学し体育教師となった。更木と同じ道を歩んだ倫太郎は、社会人になっても更木との交流があった。 「更木先生、ご無沙汰しております」  倫太郎は自ら扉を開け、うやうやしく頭を垂れる。更木は相変わらずの不敵な笑みを浮かべ、携えた土産袋を掲げてみせた。 「おう、みんな元気でやってるか。松下から集まるって聞いたから、顔見に来てやったんだ」 「先生、遠慮なく上がってください」 「用が済んだらすぐ帰る、邪魔はしたくねえからな」
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