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更木はダイニングテーブルの椅子に腰を据えると、土産袋を開け、のしが巻かれた箱を取り出す。
「箱はいらねーだろ、処分しとくぞ」
そう言って無造作にのしを破り捨てる。
「相変わらず雑ですね、更木先生」
対面する俊介は遠慮なく破られる紙の音に苦笑を浮かべる。
更木は箱の中身をテーブルの上に並べた。ガラス瓶に詰められたプリンが四つ。味は極上だがネーミングがくどいと評判で、いまや全国区だ。
『おおいわっぱら農場生まれのミラクルヨード卵をたっぷり使った超絶おいしいトロトロプリン』
ラベルを見て弥生は歓喜の声をあげる。
「わぁ、私、これいつか食べてみたいと思ってたんです!」
「僕も甘党なんで嬉しいです、どんな味なんだろ」
俊介も頬が緩む。
「そういえば松下から聞いたんだが、川端はファッションビジネス能力検定一級、受かったんだってな。土産はその祝いみたいなもんだ」
「あっ……ありがとうございます……」
弥生らしくない、奥歯にものが挟まったような返事をした。
ファッションビジネス能力検定は、仕事上どうしても取りたかった資格で、二級までは順調に合格できた。
しかし、懸命な努力をしたものの、一級の難易度を打ち破ることはできなかった。
そして倫太郎は落ち込んで泣きじゃくる弥生に回転木馬を渡したのだ。同一の問題に挑戦する二度目の試験は、驚くほど簡単に回答できた。
そして回転木馬は今、俊介の所有物となっている。毎年、この出会い記念日には所有者が持ってくるのだ。
俊介がそれを鞄から取り出しテーブルの中央に飾ると皆の視線が注がれた。四体の馬のうち、二体の瞳が輝いている。
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