エピローグ

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 弥生と倫太郎も玄関まで綾を出迎えにきた。 「鳥海、看護学校通いながら子育てしてるなんて大変だな」  綾はただいま看護師を目指して勉強中である。憧れたアニメのヒロインの影響は大人まで持ち越したらしい。 「うん、人生の遅れを取り戻さないとね。でもえんじゅは俊介が面倒見てくれるから大丈夫。懐いてるし、子供の世話だけは几帳面なんだよね」 「倫太郎、もう鳥海じゃなくなって何年経ってると思ってんの。早く慣れなさいっ!」  剛健な肉体は弱点の脇腹に肘を打ち込まれ、一瞬ひるんだ。弥生は笑顔で誤魔化し、綾を案内する。 「どうぞ遠慮なく上がって」 「お邪魔しまーす」  倫太郎は綾のつむじを見下ろし、ふと気になったことを尋ねる。 「鳥海……じゃなくて奥さん、また身長伸びたんじゃねえか」  綾は倫太郎を見上げたが、視線は高校時代よりも幾分近い。 「うーん、あれからちょっとずつ伸びてるみたいなの。もうすぐ百五十センチになりそう。最近、服が合わないのよ」  綾は短めに見えるシャツの裾を引っ張ってぼやく。 「綾ちゃんってやっぱり不思議な子よね。そうだ、今度私が一着デザインしてあげる」 「ほんと? やったあ」  弥生にとっては練習を兼ねているから一石二鳥だ。  リビングでは更木が椅子に腰掛け足を組み、テレビの音楽番組を見ていたが、子供の姿に気づくと立ち上がって歩み寄ってきた。 「おお、こいつが噂の、鳥海と風間の娘か。母親に似てて良かったな、ちょっと抱かせてくれ。今いくつだ?」 「一歳と四ヶ月になりました。クリスマスイブに生まれたんです」 「いっちゃいとよんかげつぅー!」  渡すとき、両手を広げ腕をぱたぱたと羽ばたかせる。たどたどしい手つきが小さな翼のようで愛らしい。 「更木先生、落とさないでくださいよ、この子お転婆なので、よく暴れますから」  俊介がおそるおそるえんじゅを更木に手渡すと、更木と目のあったえんじゅの顔が露骨に曇る。 「このひと、なんかコワイよぉ」 「ふはは、いい勘してるぜ、俺はいろいろ怖いぞぉ!」 「わざわざ怖がらせないでくださいよ」
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