エピローグ

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☆彡 「うーん、僕が考えるには、綾はミトコンドリアのすべてが異常というわけじゃなかったんだと思う」  俊介が大学院で行っていた研究は、天使症候群の原因となる異常ミトコンドリアと正常なミトコンドリアを共培養すると、正常なミトコンドリアの機能が抑制されるというものだった。  研究論文は一流の海外誌に掲載され、俊介は研究者としての一歩目を歩み出したのだ。そのヒントとなったのは綾の生還劇である。 「あたし、あの後何度検査しても、異常ミトコンドリアが検出されなくなったんだよね」 「だから僕は異常なのが消滅して、正常なやつの機能が回復したと思ってるんだ」 「俺は奇跡が起きたと思うんだが」 「私は奇跡が起きたと思うんだけど」  珍しく倫太郎と弥生の意見が一致した。素直じゃない二人は合った視線を互いに逸らす。すでに一緒に暮らしているというのに、いまだに不器用だ。 「今更だが正常な発育してるってわけか。どうりでちょっと太った訳だ」  倫太郎はそういった瞬間、ずしんと脳天に衝撃が走る。弥生が肘で一本、決めていた。 「デリカシーのないこと言わないの! 綾ちゃんはママになっても、いたいけな女の子なんだからねっ!」 「いてえ……防具必要だな……」  倫太郎は頭をさすりながら申し訳なさそうな顔をする。  弥生は何事もなかったかのように屈託のない笑顔で立ち上がった。 「みんなお腹すいたでしょ、ご飯食べましょう」  そして部屋の明かりを落とし、オレンジ色のダウンライトを照らした。 「ほら、この方が雰囲気出るでしょ」  夕間暮れのように幻想的な色彩のリビングは、時を超えた出会いの日を思い出させる。十年前の、今日のことだ。  さすがはデザイナー、演出がおしゃれだ。
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