プロローグ

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 俊介の脳裏には五年前の光景が蘇る。悪夢にも似た光景だ。  かつて高校時代、俊介は偶然、目の当たりにしてしまった。夕暮れの公園で綾と倫太郎が抱き合っている姿を。  綾は瞳を潤ませて、覚悟を決めたかのように、その小柄な躰を倫太郎の胸に預けていた。  外見が少女のような綾と強面の倫太郎は誰の目から見ても不似合いだ。けれどもその状況を目の当たりにした以上、二人の関係を信じないわけにはいかなかった。  以来、綾は俊介と距離を置くようになってしまったが、半年も経たないうちに、ひとり寂し気な表情でいる綾を見かけるようになった。綾らしくない、しおれた姿を見て俊介は思う。  意志の強い綾が一度決めた相手に対して安易に別れを切り出すはずなんてない。だから別れの理由は倫太郎に捨てられたに違いない。綾はこの男の毒牙にかかったのだと。  俊介は握りしめた拳を振り上げた。 だが、その腕はあっさりと倫太郎の手のひらに受け止められた。俊介はそれでも掴まれた腕に力を込めるが、腕はぶるぶると振るえるばかりで、力の差は歴然だった。 「離せよ、お前を殴ってやる! でないと綾に顔向けできない――ッ!」  ところが倫太郎は、奇妙なくらいに落ち着き払った声で俊介を諭す。 「まあ、その手を下げろ。取り敢えずお前が何にもわかってなかったことが理解できただけでも、来た甲斐があったってもんだ」  斜め上からの台詞と冷静な態度がなおさら俊介の神経を逆撫でする。
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