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「綾のことをわかってないのはお前の方だろ! 綾はなぁ、いつだってひたむきで健気で純粋なやつだった! それなのにお前は……ッ!」
そこで倫太郎は俊介の腕を強引に下ろし、掴んだ手とは反対の手を俊介の血走った目の前に差し出した。
「仕方ない奴だな、じゃあこれを見てみろ」
すると倫太郎の節瘤立った大きな手は、鈍い銀色に光るオブジェを掴んでいた。円い土台の中心から一本の柱が立っていて、その上にドーム状の丸い傘ついている。その傘からワイヤーで馬のモチーフが四頭、別個に吊るされている。傘の部分は回せるようで、手のひらの上で馬がゆらゆらと不規則に揺れていた。
どうやら回転木馬を象ったオブジェのようだ。
「これは、俺が鳥海から預かったものだ」
「綾から、預かった……だと?」
俊介はただでさえ険しい表情だったが、さらに眉根を寄せる。
「ああ、受け取ったのは高校時代だがな」
「誕生日のプレゼントか? お前には似合わないけどな」
怒りが収まらず皮肉で返す俊介に向かって、倫太郎はこんなことを口にした。
「もしもお前がこいつを受け取れるなら、受け取ってみろよ。試してみたいんだ。この回転木馬がお前を受容するのかを」
そしてオブジェをずいっと俊介の目の前に差し出した。
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