プロローグ

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 ――この回転木馬のオブジェには、いったいどんな秘密があるっていうんだ。  俊介は横たわる綾に視線を落とした。するといつからだろうか、綾の瞳からはポロポロと澄んだ色の涙がこぼれ落ちていた。  涙の雫は、肌が発する淡い光を映して、イエローダイヤモンドのような神秘的な美しさを醸し出していた。  皮肉にも「天使症候群」という病名が似合ってしまう、秩序立った美しさでもある。 「鳥海は今、 お前に『想い』を伝えられなかったことを猛烈に後悔しているはずだ。まあ、思い出してみろよ、高校時代(あのころ)をさ。お前にだって後悔することのひとつやふたつ、あったんじゃないのか?」  そういう倫太郎の細めた目はどこか憂いを帯びていて、非道な人間と称されていた高校時代の印象とはまるで違っていた。  だからなのだろうか、俊介は倫太郎に対する怒りが消えたわけではなかったが、倫太郎のいう、かつての自分と綾の関係を思い出す。
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