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琥珀色の西日が差し込む。
室内の床に格子窓の影がいびつな形を作る。
麗奈はメロディのない歌を口ずさんだ。
雪よ、降れ。
雪よ、降れ。
アン、ドゥ、トゥルー・・・
もうじき、十四歳の冬が終わる。
まだ訪れぬ春を見る前に命を落とすのか、それとも温かな息吹の未来が待っているのか、彼女にはわからなかった。
雪よ、降れ。
雪よ、降れ。
彼女はワルツを踊る。ワンピースの裾が円を描く。
雪が降れば、<館>に捕らわれなくてすむのだ。
雪が降れば、馬車は来ない。銀世界には方向感覚を狂わせる魔力があるのだという。
雪が降らなければ、二頭引きの馬車が迎えに来る。麗奈は馬車に揺られ、遠くの<館>へ運ばれる。
<館>とは何のことか、彼女は十四の夏まで知らなかった。
両親の死後、彼女は鉄格子に囲まれた家に引き取られはしたが、ごく当たり前の生活を送ってきた。
広大な<敷地内>には学校もあったし、欲しいモノが買えるお店もたくさんあった。ともだちもいる。
春には花の小枝を腰に差し、夏には川で水を浴び、秋には祭りばやしを愉しみ、冬は落葉松の林を走りまわる。
麗奈は運命も知らずに、駆け巡る四季を謳歌していた。
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