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「甲殻類の焼き飯とアボカドチキンのフレンチサラダ。スープはトマトコンソメ」
甲殻類の焼き飯とは、海底火山麓で獲れたチムニー蟹の甲羅を割り、その中に蟹みそと蟹肉と塩コショウライスを詰め込んだ海鮮料理だ。
麗奈は嬉しそうな表情を作って、頷いてみせた。
本当は上の空だった。
明日の天気が気になってしょうがなかったのだ。緊張と不安がピークに達しようとしていた。麗奈は何事もなかったかのようにつくろってキッチンをあとにした。
ワルツを踊りながらAIママとのやり取りを思い返していたが、外に男子の姿をみとめて動くのをやめた。
同級生のイオタロウだ。すらりとした長身で見出しなみもよく、天使のような無邪気な顔をしているが、自分と同い年には見えないくらいの切れ者だった。
麗奈はイオタロウの背伸びしない大人びたところが気にいっている。他の男子たちと違って、わざとらしい嫌悪感を示したり、人の欠点を揶揄もしない。
その彼が窓の外で手招きをしている。
麗奈は鉄格子の嵌った窓を開けた。
脱走防止用の頑丈な格子の隙間から細い手を伸ばす。イオタロウは周囲を用心深そうに窺がうと、麗奈の手をそっと握った。
「明日の早朝、雪だったらに決行するぞ」
「わかった」
麗奈はイオタロウの温もりを確かめるように強く握りかえした。
イオタロウは囁いた。
でも、後悔しないかい?
うん。<館>に囚われたら、アタシがアタシでなくなる。それは絶対に嫌だよ。
麗奈は握っていた手を放した。
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