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麗奈は防寒服を羽織ると、できるだけ音を立てないように自室のドアを開け、明かりを落とした廊下の様子を探った。暖房のない通路は、ぐっと気温が低くて寒い。
問題は玄関ホールに併設されたAIママの部屋だ。
AIママは麗奈の生活リズムに合わせて活動するため、基本的には夜明け前の時間帯は機能停止状態のはずだが・・・
ママの部屋扉は閉まっていた。機能停止中の赤いランプが灯っている。
アンドロイドとはいえ、麗奈の母親役にはちがいなかった。機械特有の冷徹さも無機質な言動もあったが、不自由を感じたことは一度もなかった。
ママ、さようなら。
麗奈は心の中でつぶやくと、息を止め、玄関ドアを手動に切り替えた。
ドアをあけると、針のような鋭い冷気が彼女の頬を刺した。
「待ちなさい、麗奈」
AIママの声だった。
咎めるような目つきで麗奈を見つめている。その手には弓が構えられていた。
標的は明らかに自分だった。
ああ、ちくしょう! いつの間に?
麗奈は悪態をついた。
万事休す。
AIママは弓を下ろすと、困ったような笑みを浮かべた。
「母親の役目とは娘を守ることでしょ?<館>へ行くことを拒む我が子に、無情な真似はできない。・・・それが私の結論。このマリネリスの弓矢を持って、早く行きなさい」
母親役は飛び道具を麗奈に差し出した。
「え、どういうことなの?」麗奈は戸惑った。「アタシを止めないの?」
「いいえ」
AIママは首を横に振った。
いかにも人間臭い動作に、麗奈はますます困惑するばかりだった。
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