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「人は生まれたときから数多の道を選択できる。そしてたくさんの人に助けられながら歩いて行ける。だけど、最後の道は誰の助けを求めず、独りで歩いて行かなくてはならないの」
「それはAI《人工知能》の教え?」
「いいえ、母として。実は私も監視されている。私がしていることは重大な法規違反、私の謀反が感知され・・・れ、れ、お」
AIママの顔の筋肉構造が硬直し始めた。
「ママ!?」
麗奈は思わず母を抱きしめた。ひんやりした人工皮膚の感触の奥から温もりが伝わってきた気がした。
母は無機質な眸を麗奈に向けた。
「マリネリスの矢はあなたを守るための武器。鏃は三つ。
一つは追っ手を錯乱させ、一つは追っ手を破壊させ、あと一つは・・・岩を穿つ・・・」
そのとき、母親の機能が停止した。
「ママ! しっかりして!」
麗奈は機械の身体を揺さぶった。
眸だけが何かをうったえるかのように微動した。目じりから透明な液体が溢れてきて、口から声にならない嗚咽が漏れ、それで終わりだった。
AIママの胴体は感情のない塊りと化した。目は閉じることもなく、虚空を凝視していた。
「ママ! ママ!」
麗奈は叫びながら、冷たくなったアンドロイドを揺さぶった。
麗奈の肩を誰かがつかんだ。ハッとして振り向くと、イオタロウがそこにいた。
「お母さんの気持ちを汲むんだ。急がないと、おれたちもやられてしまうぞ」
だしぬけに、警報音が鳴り響いた。
麗奈はクロスボウと矢筒を手にすると、イオタロウの指示に従い、二頭引きの幌馬車に乗り込んだ。
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