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やるせない気持ちに押しつぶされそうで、なんとなく母から教わったおまじないを唱えてみた。
エニサヘアモ エニサへアモ エニサヘアモ …
その時、薄暗い部屋に霧が立ち込めた。
何が起きたかわからず呆然としていたら、霧の奥に黒い人影らしきものが見える。
そして、人影は言った。
「死んでしまえばいい と思う人を一人だけ、今日、殺してやろう。さぁ誰だ。博美か? 隆司か? 願え。死んでしまえと願え。その一人を今日中に…」
言い終えると、霧と共に人影は消えた。
「なんだったんだろう…」
頭の中に、博美と隆司、それに親戚の人たちが浮かんでくる。
みんな、私をあざけ笑っているような表情をしている。
死んでしまえ…
ピンポーン
呆然としていたら突然インターホンが鳴り、私は驚いた。
しかし、出る気力もなく無視する。
どうせ、博美と隆司が来たのだろう。
数回、インターホンが鳴り、続いてノックが繰り返される。
次第にドンドンと叩く音に変わる。
ガチャ
「なんだ、開いてんじゃん あれ、真っ暗。ゆーこ いるー? 来たよー」
博美の声。
同時に、ドタドタと無遠慮に2人の足音が入ってくる。
「裕子、きたよー」
今度は隆司の声だ。
リビングのドアが開き、扉の脇のスイッチを押す音。
真っ暗な部屋に蛍光灯が灯り、部屋の片隅で座り込んでいる私に、博美は一瞬驚いたようだ。
「どうしたの裕子」
「なんでもない」
「あれー、何も用意されていない。もしかして今日だって忘れてたの?」
「うん」
「自分の誕生日を忘れちゃだめだよー。」
「うん」
博美はいつものように、甲高い声で話しかけてくる。
私は、何も話すことなんてない。
何も話したくない。
続いて、いつものように気だるそうなやる気のない声で隆司が言った。
「ケーキしか買ってきてないから、コンビニでなんか買ってくるよ」
「うん」
「あ、でも、金ぜんぜん無い。ごめん裕子、少し借りていい?」
「うん」
私はテーブルに置かれた財布を指さす。
早くここからいなくなってほしい、それしか考えられなかった。
隆司は慣れた手つきで、私の財布からお札を数枚抜いてコンビニへ行った。
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