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ラーメンとネックレス
幻のラーメン屋のおじちゃんは、人がいい職人だ。
ブサメン時代から通っていて小太りになったのだが、今の俺はいくら食べても太ることはない。便利な体だ。おじちゃんは俺が見た目だけ変わったということに気づいてはいない。
こちらのイケメン顔になってからも常連なので、
「兄ちゃん、彼女かい?」
「まぁ…」(違うけど)
「女の子連れなんて、はじめてだね」
相変わらず、にこやかなおじちゃんだ。
「そうなのか?」
王女が、いぶかしげに聞く。
俺は、ブサメン時代彼女などいたためしがない。
モテないのだから仕方がない。
彼女がいても、あえてここには連れてこないだろう。
クリスマスイブだけあって、客はいない。
あっという間に出来上がったラーメン。
いたって普通のしょうゆラーメンを王女は、美味しそうに食べた。
どんな高級料理よりも、美味しそうに食べたのだ。
グルメな王女の舌を満足させられるか正直心配だった。
でも、その心配は取り越し苦労だったようだ。
「幻の味だけあるな」
「店の名前が幻のラーメンというだけ……だけどな」
「ここの店長、王室のコックに雇いたいものだ」
そこまで気に入ったのかよ?
「ここに来たのはお忍びだから、食べたら早めに帰るか」
俺たちは食べ終わるとすぐに外に出た。
店を出ると 露店でアクセサリーが売られていた。
千円程度の安物で、王女には不釣り合いな代物ばかりだったが、
「これ、かわいいな」
珍しく女子らしさのない王女が興味を持った。
「おねーさん、絶対似合いますよ」
露店商の若いおにいちゃんが勧めた。
似合うわけないだろ。この人、こう見えて王女だぞ。
億単位のアクセサリーが似合うレベルだぞ。
「これ、買うよ」
王女が即決したが 王女は金を持ち合わせていなかった。
普段、一人で買い物をすることはないので基本現金を持ち歩くことはない。
「俺が買ってやるよ」
俺は、生まれて初めて女性にプレゼントをした。
それも初恋相手に。
千円程度の安物のネックレスだったが、シルバーの色合いで、デザインはかわいい。
「俺のデザインした世界でたった一つのネックレス。お買い上げありがとう」
露天商は笑顔で対応する。
ジュエリーデザイナー志望の若手アーティストらしい。
「世界で一つか、悪くないな。あいつをデザイナーとして国で雇いたいものだ」
王女の好みはわからない。これが本当になったら、このおにいちゃんデザイナーとして大出世することになるな。
「そろそろ戻らないとまずいな」
俺はバイクを走らせ王女が俺につかまる。
距離が近い。心臓の音が聞こえてしまわないかという距離感にドキドキしながら王女と城へ戻った。脱走がバレたら大変な騒ぎになっただろうが、なんとかバレずに済んだようだ。その日からそのネックレスはいつも王女の首にかけられていた。きっとデザインが気に入ったのだろう。王女は魔除けだと主張していたが。
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