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元の姿に戻る日
俺の私生活はだいぶ充実していたが……。
とうとうその日がやってきたのだ。魔法が解ける一年というタイムリミットが。美しい妖精は、突如現れた。
「一年経ちました。元の姿にあなたを戻しに来ました」
「もう少しこの姿のまま最強の力を持つことはできないかな?」
なんとか今のままでいたい俺は最後に願ってみた。
「私は妖精として転生したルイザの母親です」
いきなりの告白に驚いた。
「え……? ルイザを置いて男と駆け落ちした……お母さん?」
「えぇ。その通りです。私はルイザを連れて行きたかったのです。しかし国王はそれを許しませんでした。部下の男は私の幼馴染でずっと彼が好きでした。しかし、親同士の取り決めで国王と結婚し、子供を授かりました。でも、幼馴染の彼のことが好きで、私は国王に内緒で浮気をしていました。国王は大変ご立腹で、離婚する条件が子供を置いていくことでした。そして、私は死んだ人間として、国を追放するという命令が下されました。そのあと、大好きな人との生活は大変楽しい時間でしたが……私は、病におかされ死んでしまったのです。罰が当たったのでしょう。しかし、心を閉ざした一人娘のことが心配で魔法を使える妖精に転生して、娘を救う道を選びました。妖精にはわかるのです。あなたが娘を変える力を持っていると。そこであなたに近づき、魔法をかけました」
「ケガをしていたのは嘘だったってことですか?」
「ごめんなさい。あなたの人柄を試させてもらいました。私はこれから天に召されます」
「死んでしまうのですか? せめてルイザに会ってください」
「私はあの世へ旅立ちます。あなたは元々イケメンになんてなっていなかったのです。最強の力と引き締まった体になるという魔法と自分自身だけ自分の姿がイケメンに見えるという思い込みの魔法をかけました。魔法はもう切れています」
「俺、イケメンになっていなかったのですか? 俺はもう最弱なのでしょうか?」
正直慌てている自分がいた。イケメンじゃなかったのになぜ俺なんかと婚約したのだろう? それに、なぜ女性にもてるようになっていたのだろう? 思い込みによって、自分に自信を持っていたからなのか? 実は案外かっこいい男だったということなのか?
「いえ、最強でいられるのは今だけで、トレーニングを怠れば弱くなっていく。これは常人と同じです。今までが超人だったのですから。強くありたければ毎日鍛えていれば、この力を保つことは可能です」
いきなり最弱な男に逆戻りするのではないという事実を聞いて安堵していた。俺は、鏡で自分の姿を確認した。
あれ? 俺、痩せてないか? しかも筋肉もついている。鏡に映ったのは超絶イケメンではないが、戦士らしい体つきになった自分だった。
「一年間、強豪の戦士たちと毎日体を鍛えていたのです。体が絞られることは当然ですよ」
「最強と言われる王女と毎日格闘していたのだ。太っている暇なんてなかったよな……」
「今から娘に会いに行きます。私につかまってください」
◆◆◆◆◆
「起きてください。ダーク。バイトは、終了しました」
あれ、俺は寝ていたのか?
「夢の中で思い込みの実験はいかがですか?」
目を開けると、瞳は冷たいが、美しい女性がいた。ここの研究所の職員のようだ。
「ルイザ……??」
俺は、つい王女が目の前にいるような気がして、恋人を呼ぶかのように声に出してしまった。
「実験の効果は絶大ですね。人間の脳は思い込むことで心を支配するのですね」
何やらメモを取りながら、冷たい表情の美人は、ほほ笑んだ。
「俺は、ダークですよね」
確認してしまった。
「そうですよ」
「私たちの研究は人間の脳が自分という存在をどう認識しているか? 思い込みについて調べています」
「そっか、割のいいバイトだったから、申し込んだんだっけ?」
「これで終了したので、お帰りください」
あっさりと研究所の女性がお別れの言葉を放つ。俺は、どうしても思いが高ぶってしまい、
「ルイザは?」
「実験の異世界で王女は待ってますよ」
「ルイザに会いたい」
「じゃあ、次の実験に入りますか? 夢の続きをみることができますよ。しかし、次に夢の世界に入ると2度とこちらの世界には戻れなくなりますが、よろしいですか?」
「戻れないのですか?」
「異世界の住人になってしまいます」
「俺は、異世界の住人になります」
それを聞いた研究所の女性は、事務的な笑顔でほほ笑んだ。
――もう、俺は夢の世界にどっぷりはまってしまってどうやら抜け出せそうにない。思い込みという恐ろしい魔力によって異世界から出たくなくなっていた。もしかしたら――研究所の思惑通りなのかもしれない。
自分には何もできない、どうせ自分なんか……なんていう思い込みは可能性を閉ざしているのかもしれない。思い込みはプラスにもマイナスにもなるのだ。人を好きになることも何かに夢中になることも「思い込み」の魔法の力なのかもしれない。
見た目のいい悪いなんて決まっているものではないのだ。基準のマニュアルなんて元々ないのだ。見た目は、その人の一部分でしかないのだから。
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