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初彼女はゲームキャラ
最近、原作でルマ先生が殺されるという話が登場することを思い出した。
ゲームばかりしていて、原作そっちのけだったから大事なことを忘れていた。
この世界はプレイヤーがいなければ、基本平和だ。
この場合のプレイヤーというのは世界中という意味ではなく、僕のゲーム機器でプレイする人がいなければ、という意味らしい。
しかし原作となるとその世界観が反映される可能性は大いにある。
ルマ先生を守るため、僕は勇者と入れ替わったに違いない。
きっとそうだろう。
僕は勇者だ。大好きな女性一人を守ってみせる。
使命感満載の中、僕はルマ先生のいる部屋に話をしに行く。
現実世界では、美人を目の前にしたら話しかけることもできない。
しかしこの世界はバーチャルだ。
外見も元々の姿ならば自信がないため劣等感故の孤立を選んでいただろう。
しかし、今はイケメンだ。そして強い。
大ファンだった人を目の前に話しかけないという選択肢はなかった。
大好きなアイドルが目の前に居たら話しかけたくなるという心理に近いかもしれない。
現実なら拒否されるという恐怖もあるが――
この世界で勇者を拒否するキャラなどいない。
だからこそ、こんなにも大胆になっているのかもしれない。本当は、ただのアニオタのゲーマー男なのだが。
「ルマ先生」
「珍しいわね。あなたが先生呼びなんてどういう風の吹き回し?」
今までルマ先生に対してどういう扱いをしていたのだ? 勇者よ。
僕はミカ×ルマのカップリング好きだったのに。
あれはファンが作った幻だったのか?
でも、僕がルマさんとここで恋仲になればミカ×ルマのカップリングは成立するな。
「ルマ、付き合ってくれないか」
本来の勇者らしい言葉で告白してみた。
俺の見た目はかっこいい。絶対にOKするはずだ。
するとときめき顔より心配顔になる女医。予想外だ。
「あなた、頭おかしくなった? どこか打ったの? 病気じゃないの?」
本当は演技しようかと思ったけど、キャラが違いすぎて無理が出る。
ここは本当のことを話そう。
「病気じゃないです。実は、中身がリアルのプレイヤーと入れ替わったのです」
「なによそれ? でもそれならさっきの言葉、合点が合うわ」
そこまでかたくなに勇者を恋愛対象としてみてないとは……
僕は、その不思議な自分の身に起こった出来事を一部始終話した。
気づいたらゲームの世界にいて、勇者が僕として生活していること。
このゲームの大ファンで、知り尽くしていること。
「なるほど、だから礼儀正しかったのね。あいつが現実世界で生活できるのかしらね?」
確かに勇者はこの世界では優秀だが、現実世界に馴染めるかという心配はしていなかった。
元に戻ったときに勇者が犯罪者になっていれば、イコール僕が犯罪者だ。
今更になって事の重大さに気づいた。呑気な性格にもほどがある。
「スマホを通して連絡しているから、まぁ大丈夫」
というと物珍しそうにスマホを覗き込んだ。
「さっきの話だけど、付き合ってもいいわよ。中身があなたなら、オッケーよ」
どんだけ嫌われているのだ。勇者なのに……ため息が出た。
「同棲開始ってことかしらね?」
「同棲??」
そんな大それたことを考えてもいなかった。
恋人なら同棲ってことだよな。付き合ったこともないのに。
それより危険を伝えなければいけない。
「もうすこし未来の話ですが 盗賊の大きな組織にあなたは誘拐されて殺されてしまいます。だからその前に逃げてください」
「なにそれ?」
「原作漫画ではそうなっています。だからここの世界でもそうなるはずです」
「勇者がいれば大丈夫でしょ? 勇者はやられてしまったという話だったの?」
「いえ、勇者はここにはいませんでした。あなたが殺されたと知ったのはだいぶ後で……」
「あなた能力は勇者なのだから、最強じゃないの? 恋人くらい守りなさい」
ルマ先生は気が強く、逃げるような人じゃなかった。僕一人で敵を倒せるのか? 不安がよぎる。
僕の初めての恋人ができた。初彼女はゲームキャラクターだったのだ。
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