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このことがあったからではないが、菫はわかりやすく優しいことを言ってくる男が信用できなくなった。だから自分から貴士のことを好きになってよかったと思っている。たとえ沙都が言うように彼が奥手であっても。
先日、マフラーを忘れたのは本当のことだった。
ただ、帰り道で貴士がそれに気づき、自分のマフラーを巻いてくれた瞬間のことを菫は忘れられなかった。
彼の手が顔の周りをかすめ、髪や耳や頬に触れるたびに、くすぐったくて、首を竦めた。そこにふんわりと藍色のマフラーがかけられ、制汗剤なのかシャンプーなのか、ミントや柑橘系の香りに包まれた。マフラーにまだ残っていた温もりと柔らかい香りにドキドキした。家に帰ってもすぐ外すことができなくて、30分くらい部屋で座ったままでいた。
そう思い返すと大概ヘンタイなのかもしれないと菫も思った。
そしてさっき部活が終わり、昇降口で貴士を待っている間、菫は衝動的に自分のピンクのマフラーを外し、お弁当を入れている紙袋に突っ込んだのだった。
三日と経たず忘れたと言って呆れられても、また藍色のマフラーを巻いてもらいたいと思ってしまった。
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