心の大当たり

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 元々別の地で漁師をやっていた俺の親父は、魚が取れなくて稼げないからと地元からここに移り住むことを決めた。俺達家族も慣れ親しんだ地から離れることになり、俺は友達と離ればなれにされた。その事に腹を立てて一足早い反抗期を迎えグレた俺は、腕っぷしの良さをいいことに転校先の生意気な奴らに片っ端から喧嘩を売った。  気が紛れることもなく、同学年に手を出しては大人達に何回も殴られ…そうこうする内に俺を相手する奴は誰もいなくなった。孤立した俺は学校にも行けず、誰ともつるむこともなく…卒業を期に親戚の家近くの中学に通うと殴り倒した親父に言ってこの地を去った。  あれから十年。俺は相変わらず孤独で、バイクとコインを相棒に各地を転々とする流浪人になった。孤独を寂しいと思ったことは一度もない。親とも事実上の勘当になった俺に帰る場所なんかない。最初から居場所が無い奴が孤独を感じることはない。だがそれでもこの地にいると、何か自分が痩せ我慢しているのではという後悔に陥りそうになり、無性に苛立ちを覚える。  さっさと出よう。こんな所。  俺はコインを親指の爪に乗せて上に弾こうと人差し指で親指を力強く押し付ける。コインは今にも弾かれたがっているのか、太陽の光を反射してキラリと輝く。  …そういえばこのコインは元々俺の物じゃない。あの女の子がこの神社で俺にくれた物だったな。これも何かの縁か。  しつこかったな、あいつ。何度うるせぇぶん殴るぞと脅しても怯むことなく学校に行こうとか説得しに来たっけか。  …今どうしているかな、あいつ。
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