心の大当たり

7/12

28人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「でも、最後位皆許してくれると思うの!! お願い!! 卒業式の日だけでもいいから学校に来て!! 一人だけ仲間外れなんて寂しいじゃない!!」 「…俺は誰ともつるまねぇ。仲間なんていらねぇ。お前みたいな弱い奴と違って一人で生きていけるんだから…もう放っておいてくれ。」  言い終わってから少し言い過ぎたと後悔する。だが卒業するのならなおのこと、これ以上朱里に付きまとわれるのはご免だ。この時の俺は孤独になり、ここを捨て去ることで新しい人生が開けてくると信じていた。 「分かった。もう諦める。これでお別れだね、私達。」  泣き止んだ朱里はそう言って、ランドセルを背負ってその場を去ろうとする。俺はトボトボと歩くその後ろ姿を一瞬だけ目の端で捉え、すぐに屋根へ視線を移す。俺は何も間違ってない。たかが女の子一人泣いて懇願してきた所で俺の信念はぶれない。無言でそう言い聞かせていると急に視界に朱里が飛び込んできた。手にはリボンがほどけた状態で握られている。 「これ、高神君にあげる!! 私達の出会いのしるし!!」 「な、なんだよ急に。」  俺の静止を余所に朱里はずいずいとリボンを目の前に突き出してくる。視界がピンク色一色に染まっていく。 「いらねぇって!! 第一そんな女物っぽいやつ受け取れるかよ!!」 「分かった。じゃあこれならいいでしょ!?」  リボンを勢いよくランドセルにしまうと代わりに黄金色に輝くコインを一枚取り出して俺の手のひらに押し付ける。朱里の親父さんは海外に行くことが多いらしく、その時のお土産にもらった大切な物だと聞いていた。皆には内緒だよと見せてくれた時、その輝きに思わず見とれてしまったその逸品が、俺の手の中にあった。 「これお前の大切な物だろ!! 受け取れるかよこんな物!!」 「じゃ一年経ったら返しにきて!!」 「なんで今じゃねぇんだよ!! っておい待てよ、待てって!!」  俺の静止も聞かずに朱里は走って俺の前から消えた。すぐに追いかけたがいつからそんなに速く走れる様になったのか、姿を捉えることはできなかった。ぜぇぜぇと息を荒げる俺の手の中でコインがどうぞよろしくと言わんばかりにキラリと輝く。  俺はそれをポケットにしまって…翌日を迎えて…先生から卒業証書をふんだくってこの地を後にした。 ーーーーーーーーーー
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加