心の大当たり

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 居酒屋に着いた俺は、この店の名物である金目鯛の煮付けを二人でつつきながら、ここに来るまでの経緯を話した。車で来た癖にやたら上機嫌に酒を飲む朱里は当然そんな話を信じるはずもなく、「高神君がそんな詩人めいた人になるなんてなーあはは!!」等と笑うだけだった。気取っていると言われても致し方ない。朱里が素面(しらふ)でもこの話は信じてくれないだろう。 「でもその話が本当だとすると、あのコイン無くしたってことよね? ひどーい。返してって約束したのに。」 「いや勝手に押し付けてきただけで約束はしていないだろう。無くしたことは謝るけど…」 「おまけに長九郎(ちょぼくり)稲荷の賽銭箱も壊したなんて、やっぱり高神君はあの時から何も変わってないんだね。大きくなったのは背だけかぁ。」  俺はあの神社そういう名前だったのかと内心感心しながら「うっせ。」と口を尖らせて返す。俺はバイクがあるから酒を飲んでいないが、上機嫌な朱里を見ているとアルコールが入ってるかの様に気分が良くなっているのを感じる。こんなに人と喋ったのも久しぶりだ。 「でもそっかー。その運命的なことがあったことで私達は出会えたんだね。神様に感謝しなくちゃ。」 「朱里はあそこで働いてるのか? お前の家金持ってる方だろ? こんな寂れた所じゃなくて、てっきり東京の都心に住んでると思ってたんだが…」 「私この町が好きなんだ。確かに都会と比べたら仕事も娯楽も無い町だけど、魚は美味しいし皆優しいし、都会でバリバリ働くよりこっちでのんびり暮らす方が性に合っているかな。」 「それでもあんな所で働くよりかは給料がいい所他にもあるだろう。犬吠埼のマルシェなんか新しい感じで給料も良さそうだが、そこで働こうとは思わないのか?」  それまで上機嫌だった朱里が急に押し黙って、俯いてしまう。何か悪いことを聞いてしまったかと思ったが、徐々に顔が紅潮する朱里を見てその考えは杞憂(きゆう)に終わる。何だ? そんなに恥ずかしいことなのか? 「…あの展望館はね。本当に地球が丸く見える程周りがよく見渡せるの。辺り一面の海。そびえ立つ山。沢山の風力発電。そのどれもが広大で絶景なんだ。」 「そりゃ俺でも知ってるよ。何回か見たことあるし。」 「あそこはね、祈りの地でもあるんだ。すぐ近くにフィリピンとの友愛のモニュメントがあるでしょ。第二次世界大戦の恩讐を越えて、平和を祈願するための物なんだけど…だからかな。地球を見渡せるここなら、大事な毎日を過ごす皆を見守れると思ったんだ…勿論、高神君のことも…何処にいても見守れるって思っ、て…」  そう言って朱里はまた泣き出してしまう。その姿を見て俺は初めて過去の行いを後悔する。あの時俺が意地にならなければ、朱里はこんな所にいなくて済んだだろうか。俺は全てを捨てて自由になったつもりでいて、一人の女の子の犠牲によって居場所を確保されていた事実も知らないで俺は孤独だと身勝手に思い込んでいた。  泣いているのを誤魔化すためか熱燗を徳利ごと飲んでしまう朱里を見て俺は最初から孤独だと勘違いしていたことを思い知った。
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