どうせ“好き”なのは私だけ。

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霧花(きりか)〜! 今日一緒に帰ろう?」 「あ、うん。いいよ〜」 いつも彼氏と一緒に帰っている真波(まなみ)は中学からの仲。 三ヶ月前に彼氏ができたらしく、幸せな日々を送っているようだ。 そんな彼女を見て嫉妬してしまう私は醜い女だろうか。 だって悔しい。 中学からの仲だというのに、真波だけ幸せな人生を歩んでいるのだ。 壊れてしまえ。 そのまま私に泣きつけばいい。 真波が幸せになればなるほど自分が醜い女へと化していく。 人間に嫉妬は付き物だ。 「最近栄司(えいじ)が構ってくれないんだ」 「へぇ、あんなにラブラブだったのにね」 栄司とは真波の彼氏である。 「そうなの!私は大好きなのに、寂しくて…昨日なんてメッセージの返信もなかったんだよ」 昨日…ああ、きっと私が栄司と会っていた時だ。 自分だけ幸せになる真波が許せなくて、栄司に近づいてみたのだ。 そしたら意外にも好反応で、実は昨日一緒に寝た。 その事実を真波は知らない。 二人が別れるのも時間の問題だ。 もし栄司が私に乗り換えようとしたら、その時点で真波の恋は終わる。 幸せが崩れることだろう。 今も不安で心が揺れているかもしれない。 だから私が拭ってあげる。 「何か予定が入ってたり、忙しかったのかもね。 真波が寄り添ってあげたら元気になるよ、きっと」 「そう、かな…」 本当に単純。 私の言葉で不安がいくつか消えたようで、少し元気になったのがわかる。 「弱気になっちゃダメ。 もっと自分からも行かないと!」 ベタベタくっつきすぎて、今度はうざがられたら良い。 そしたら栄司は尚更私のところに来ることだろう。 その度に体を重ね、いつしか心も奪えばいい。 人間の心情の変化とは早いものだ。 けれど私は─── 「そう、だよね…ありがとう霧花!」 その笑顔がずっと私の心を縛り、離そうとしない。 思わず手を伸ばして触れたくなる衝動を必死で抑えた。 ああ、今日も本当に健気で可愛い。 その笑顔を一番近くで見られる今のポジションをキープし続けたい。 だから邪魔なの、栄司という男は。 真波に男なんて存在は必要ないのだ。 私が守れば良い、なんなら私が養っていけば良い。 私の手から離れていかないで真波。 離れていこうとすればするほど、自分を苦しめる羽目になるんだよ。 『これ、真波には内緒だよ…?』 『当たり前だろ、このスリルが案外ハマりそう』 栄司が真波を捨てるのも時間の問題。 別れを切り出した時、真波は私に泣きつくことだろう。 そして私は真波の頭を撫でて、抱きしめて言うの。 『あの男の目は節穴なんだよ、こんなにも素直で可愛くて、思いやりのある真波を捨てるだなんて』 私なら一生自分のものにする。 真波を決して離したりはしない。 「見て、真波」 「どうしたの?」 「まだ明るいのに月が出てる」 「あっ、ほんとだ!」 確か今日は満月だったはずだ。 夜になれば綺麗な月光が私たちを照らすのだろう。 「───今夜も月が綺麗になりそうだね」 好きだよ真波。 そのあどけない笑顔も、底抜けの明るさも。 バカでドジだけど一生懸命なところも。 コロコロ変わる表情も、頭の先から足の先まで全部愛してる。 「絶対綺麗だよね、夜が楽しみ!」 「そうだね」 「せっかくだから夜に電話でもしようよ!」 「いいね、電話」 離れていても繋がれるから。 真波と言葉を交わしながら過ごせる夜だなんて、それ以上に幸せなことはない。 「本当に私、霧花と出会えて良かった〜! いつも仲良くしてくれてありがとう、霧花好きだよ!」 「───私も好きだよ、真波と出会えて良かった」 違う、ちがう、チガウ。 私の欲しい“好き”はそれじゃないの。 もっと欲しがって、飢えて、渇いて。 求めて私を、ずっとそばに居たいって。 私が絶対に幸せにしてあげるから、嫁においでよ。 深く彼女を愛しているのに、応えてくれない。 性別なんてこの世からなくなってしまえばいいのに。 けれどいいの、望めば望むほど離れていくのが運命だから。 付き合うことも、手を繋ぐことも、キスをすることも、それ以上のことだって私は求めない。 だから、どうか真波の隣で想わせて。 一生この想いは消えないから。 どうせ“好き”なのは私だけ。 わかっていても、真波の存在が私を掴んで離さない───
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