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オレンジジュース
公園で子供たちが遊んでいた。
あどけない声がこう言った。
「おまえはずうずうしいオンナだな」
声変わりはしていなかった。
高くて可愛い声だった。
笑顔で飛び出た言葉だった。
わたしは思わず凍てついたけれど
陽炎の向こうで子どもらは
変わらずゆらゆらはしゃいでいた。
汗が流れた細い筋だけが
ココアのような肌色を
うっすらと濃くしていた。
彼は
誰の真似をしたのだろうか
彼の前で
誰がそう言ったのだろうか
重いスポンジを握ってみたなら
溢れ出たのはタールだった
くまの柄の小さなコップから
ぐわぐわと溢れんばかりに
心をこめて注ぎ込んでいたのは
そうではなかったはずなのに
こうなるはずはなかったのに。
しかしタールの水槽では
タールは清水にもなり得るのだ。
ようやく母や父ではなく
友の名を呼ぶようになった口
そろそろ歯の生え変わる口
柔らかくほどけた口から
こぼれ出たのはタールだった。
わたしは願わずにはいられない。
残酷なまでに両手を伸ばして
この星の水をクジラのように
飲み干していく子どもらも
いずれ誰かを抱擁して
愛していると言えるように
どうか
せめて彼らのコップには
手づからのオレンジジュースを。
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