AIロボット彦六

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 S博士は器量が芳しくない妻の良子にほとほと飽き飽きしていた。だから自分の相手をしてくれる良き召使を得るべく人工知能を備えたロボットを製造した。それはS博士にとって多年に亘って研究を重ねた集大成と言えるもので自分の好きな落語家に因んで彦六と命名した。 「おい、彦六、オンザロックでウィスキーが飲みたい。それと生ズワイガニをボイルして持ってこい」 「かしこまりました」  彦六はS博士が晩酌をやりたいことを察知し、支度しにキッチンへ向かった。良子と違ってプロ並みの腕を持つ彦六は、ベストな塩加減、火加減、茹で加減をしっかり心得ていて最良のボイルズワイガニに仕上げることに抜かりはない。  S博士がリビングのソファに座り葉巻をくゆらせながら待っていると、やがて彦六は頼まれた物をトレイに乗せてリビングにやって来て給仕を始めた。  S博士は絶妙な風味と甘味とぷりぷりした食感が味わえるズワイガニの身を摘みにグラスを傾けながら彦六に給仕をさせるだけでなく漫談をさせ、面白くなければ彦六を殴ったり蹴飛ばしたりして普段、良子の所為でため込んでいるストレスを発散するのだ。 「彦六、そろそろお前の十八番を見せろ」  そう言われると、彦六は給仕を止め、ソファの向かいに設置してある高座に座布団を敷いて正座し、八代目林家正蔵張りに「五人回し」という演目を名調子でやり出してS博士を楽しませるのだ。
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