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※2‐2
「さっきからニヤニヤして……すっごく気持ち悪いんだけど」
隣を歩く鈴ちゃんが、丸っこい目を瞬かせながら私の顔を覗き込んできた。長いまつ毛が今日も綺麗に上を向いている。
「うそ、そんなにニヤついてた?」
「そりゃもう。見てるこっちが恥ずかしいぐらいね。こんな感じで」
鈴ちゃんは頬に手を当てながら、ぐにゃっと口角を上げてみせた。漫画に出てくる妖怪みたいな顔だ。確かに見てるこっちが恥ずかしい。
「そんな顔してない。私はぼーっと考えごとしてただけよ」
「そういうことにしといてあげる。むぎがニヤついてる時って、大抵例の人のこと考えてる時でしょ」
「さすが鈴ちゃん。わかってるじゃん」
それはどうも、と鈴ちゃんは気だるげに声を出す。話を聞いてほしくて、じっと顔を見つめると、鈴ちゃんは諦めたかのように手を振って、話をしていいと合図を送ってくれた。
「今日はね、夢を見たのよ。それもリアルなやつ」
「こじらせすぎて、ついに夢まで見始めたってわけね」
「そんな言い方止めて。なんか悪く聞こえるし」
「はいはい。好きな人の夢ね、いいじゃん。ロマンチック」
適当に相槌を打つ鈴ちゃんを睨みつけながら、私は今日の夢のことを思い出していた。あんなにいい夢を見たのはいつぶりだろう。
「付き合っている設定でさ。手も繋いじゃったりして。もしかしたら私、一生分の運を使い果たしたかも」
「やすい運。そのぐらい、現実でもやろうと思えばできるじゃん」
「私にはできないの。話したことだってないんだもん」
私は自分の手に視線を落とした。今朝、起きてから何度も見た手。まるで自分のものじゃないみたいだ。
「ってかいい加減、その例の人が誰なのか教えてよ。もう新学期だしさ、高校二年生になった記念に。ね?いいでしょ?」
鈴ちゃんが私の制服の裾を引っ張ってくる。ふんわりとしたボブヘアが、今日も風に揺られていた。
「だめ。鈴ちゃんってすぐ誰かに言いそうだし」
「まぁ秘密は破るためにあるからね」
しつこく制服の裾を引っ張り続けてきたけれど、何度か断り続けると諦めたのか、私から少し離れた。
好きな人が女の子だなんて、鈴ちゃんには口が裂けても言えない。
私だけの秘密だった。
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