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ふとした時、私はなぜ、あの人のことを考えてしまうのだろう。
例えばそれは、本を読んでいる時とか、ご飯を食べている時とか、眠る前……布団に寝転んでいる時とか。
一度思い浮かべると、しばらくその人のことが頭から離れなくて、苦しくなったり嬉しくなったり。私の気持ちは、さざ波のように行ったりきたり。
一年前からずっと。
先輩のことを。
大好きな先輩のことを考えてしまう。
先輩の横顔、声、ちょっと尖った八重歯。見た目だけじゃなくて、どんな本が好きなんだろうとか、この食べ物は好きかなとか、先輩も今頃寝ているのかなとか。
考えては胸がぐつぐつと沸騰して苦しい。私が考え始めたことなのに、制御できなくなって、頭の中をぐるぐる回り続けてしまう。
今みたいに山積みになった食器を洗っている時もそう。同じ作業を続けているから飽きているのかも、そう思ったけれど、きっと違う。
先輩のことが好きだから。
好きで好きで、大好きで。恋、焦がれているから。
私は、先輩で頭がいっぱいになってしまうのかもしれない。
「むぎちゃんってば。いつまで同じ皿洗ってるのよ」
薫さんの野太い声で我に返る。まるで、頭の中にある電球をつけられたみたい。
「え? 私そんなに同じ皿洗ってました?」
「そりゃもう何十分も経ってるわ。それに水も出しすぎ。うちの店、ただでさえお金ないんだから、余計な失費を増やさないでよね」
薫さんは大きなため息をつくと、私のところまで近づいてきた。そのまま大きな手で蛇口をひねり、流れていた水が止める。
「洗い物は終わりでいいから、お客さんに飲み物持って行って」
薫さんが指さした方向を見ると、ビー玉みたいな色をした飲み物が、机の上に置いてあった。
昔、薫さんが話していた、すごく甘いジュースみたいなお酒。
味と見た目がジュースなら、お酒を飲まなくてもでいいじゃん。そう私がふくれっ面で話した時、高校生にはまだ早いと言われたことを思い出す。
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