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「むぎちゃんの手は、やっぱり小さいね」
にこっと笑うあきら先輩。その笑顔を見ると、胸のあたりが苦しくなる だけどそれは、心地のいい苦しさ。
「ほら、一緒に帰ろうよ。今日はそのために教室で待ち合わせしたんだから」
あきら先輩は私の手を掴んだまま、引っ張るようにドアに向かって歩き始めた。
好きな人の背中が、私の視界に映る。
思っていたよりも小さい彼女の背中。足を前に踏み出すたびに、ポニーテールが揺れている。それを見ていると、私の顔がまた熱くなるのがわかった。
もっと、先輩を近くで見たい。好きな人の隣に並んでみたい。
これが夢なのか現実なのか、そんなのはどうだっていい。今はただ、この幸せを私の物に抱きしめていたかった。
私はごくりと唾を飲んで、もう一度あきら先輩の背中を見つめた。
隣に並びたい、そう思って足を踏み出した、その時――。
「痛っ!」
ズキンと打ち付けるかのような衝撃を感じ、思わず目を閉じる。もう一度目を開けると、そこには見慣れた、私の部屋の天井があった。
「先輩……?」
情けなく出た私の声が、うるさい目覚まし時計の音にかき消される。
夢……?
私は目をこすって、自分の手をじっと見つめた。
いつもは冷たいはずの手が、ほんの少しだけ暖かいような気がした。
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