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「あ、でもさ。今日むぎが見た夢って、もしかたら現実になるんじゃない?」
「え? どうして?」
私が首を傾げると、鈴ちゃんは得意げに人差し指を立てた。この感じ、どこかで見た気がする。
「願い事の噂、知らないの?」
願い事……そう小さく呟いて、昨日のおじさんとの会話を思い出す。
「あぁ、おまじないをすると、願い事が一つ叶うってやつか」
「なんだ、もう知ってたんだ」
「まぁね。教えられたっていうか、やらされたっていうか……」
鈴ちゃんが不思議そうに首を傾げたけれど、私は気づいていないふりをした。いくら一年生からの付き合いだとしても、薫さんのことやゲイバーでバイトしていることは話せない。
「おまじないしてたら尚更じゃない? 叶ったら教えてよ。ビックニュースになる」
「鈴ちゃんって、意外にそういうの信じるタイプなの?」
「信じないよ。でも、信じたほうが面白いでしょ」
そう言って、鈴ちゃんはスキップしながら私の前に出た。二年生になっても、鈴ちゃんは相変わらず明るいままのようだ。
「鈴ちゃんだったら、何をお願いする?」
鈴木ちゃんの背中に向かって呼びかけると、足を止めて考え始めた。数秒経つと、くるっと私の方へ向きなおし、白い歯を見せて笑いかける。
「むぎと今年も一緒のクラスになれますように、とか!」
そう言って、鈴ちゃんは思い切り私に飛びついてきた。ほのかな柔軟剤の香りが、私の鼻をくすぐる。
「私のポイント稼いでも、好きな人は教えないからね」
「ちぇー。ケチなんだから」
私と鈴ちゃんはお互いに目を合わせて笑った。
高校二年生、すっかり着慣れた制服とちょっぴり汚れたローファー。
少しだけ、ワクワクした。
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