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「私にお酒は運ばせないって言ってませんでした? 未成年だからなんとかーって」  私がお酒の入ったグラスに触れた時、ちびっ子は触るなと怒られた。 「洗い物変わってあげるんだから文句言わないの。せっかくハンドクリーム塗ったのに落ちちゃうわ」  血管の浮き出た大きな手を、自分の頬に当てる薫さん。その仕草は、女の子そのもの。  顔も体も男の人なのに、心は女の子。  最初は変な感じがしたのに、数か月経った今では、もうすっかり慣れてしまっている。 「それにむぎちゃんも明日から高校二年生、十七歳でしょ。半分大人よ、半分」 「都合いいんだから。なんか納得いかない」  私が頬を膨らませると、薫さんは分厚い唇を尖らせた。 「言うこと聞かないなら時給安くするわよ。ここの店長は、わ、た、し」  別に私だって好きで働いてるわけじゃない、そう言い返してやりたい気持ちをグッと堪える。  近くにあった布巾で手を拭いて、仕方なくグラスを掴んだ。 「もう夜だからかもですけど――」  そう声を出して、私はわざとらしく鼻で笑ってみせた。 「薫さん。髭、伸びてきてますよ」  すれ違いざまに出した私の声を聞いてか、薫さんの肩がビクッと揺れる。 「うそっ!? 今日はちゃんとお手入れした日なのに!」  大きな声とほぼ同時に、バリンッとお皿が割れる音が後ろで聞こえた。  別に私のせいじゃない。本当のことを言っただけだし。  怒られそうだったので、逃げるようにお客さんのところへ向かう。
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