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大輝の目の前に姿を現わした時は深刻そうな顔つきをしていたのに、思いのほか明るく笑うのを見て、紅葉に合わせて苦笑しつつ、安堵する。
足元にあった使われていないひな壇に座ると…脱ぎ散らかされたままのハイソックスが大輝の目に入った。
見れば、カツラやら女ものの革靴まで散らかっている。
(…念のいれようだな)
紅葉のクラスメートたちが、彼を猫っかわいがりしていることを知っている大輝は、連中の度を越えた仕業にげんなりとした表情をする。
「なあ」
「! どうした?」
自分の隣に座っていた紅葉が、暗闇の中、ずいっ! と体ごと近づいてくる。
その近さに狼狽しつつ、少し身をひいて大輝は問い返した。
「今、何時?」
「今…? 五時半過ぎだけど」
腕時計を覗き込んで見た大輝がそう答えると、紅葉は「だ~!」と、大袈裟にため息をついて大輝の肩に寄り添った。
「カンネンするか~!」
そろそろここを出て、いったん寮に帰らなくては夕食にありつけなくなる。
自分に体をあずけて悔しそうに唇を噛む紅葉を見て、大輝はすべてを察して笑みをこ零した。
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