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湖畔とは反対方向の森へと入り、息を弾ませて駆けていく。
左右に荘厳と聳え立つ木々は、まだ十二である少女からしたら気圧されるものがある。
その枝先にあるポインセチアが道を照らし、光の中から程なくして石で作られたモニュメントが現れた。
左の壁にはこの世界が創られる前の人類と大戦の様子が簡単に、そして右の壁には永絆達のことが描かれている。
この世界──『虹華楼』は、文字通り各々の色を持つ花々が八重咲いて作られた花の世界だ。この村があるのは八階層が一つ、水の第五階層の端の方である。
花を扱う『花赦』と呼ばれる性質の下に、花を道具として使い、生活し、やがて運命に示された結人と共に結ばれ、共に花赦を繋いで子を咲かせる──それが『花赦人』である彼女達の宿命であり運命だ。
昔から何度も言い聞かされた少女達の神秘。
永絆はそれらの絵画を撫で、中心で神々しく祀られている原初の巫女の像に手を合わせて祈った。
内容は勿論、明日の儀式について。咲螺が成功するように、そして自分も失態を晒さないように。
この習わしも、珠爛から口酸っぱく言われたことだ。あの聖女のように若く美しい母は、こと原初の巫女に関する事柄になった途端に厳しく、それでいて儚げな表情をするのだ。
それに関しては咲螺も気付いている。
だからこそ、原初の巫女から始まる巫女のお役目を、似ているといった理由だけで自分が行っていいのかという彼女なりの負い目もある。
祈りを終え、銅像の麓にある硯箱を開ける。
中にはスイートピーの花弁で作られた大麻が入っていた。
祓いの儀の際に扱うようなそれを手に取ると、像から離れ、中空に円を描く。
すると、描かれた円の内側の景色が歪み、花弁が持つ多様な色が妖しく光り出す。
これが珠爛が持つ力──『花護』である『別離の布』だ。
相変わらず自分の紅母は凄いなと舌を巻き、距離を超越する空間の転移に身を委ねた。
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