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それからふと、直は大人しくなった雪を赤子のように「どっこいしょ」と抱え上げ、浮かれた足取りでよたよた歩き出した。
「ちょッ、な、なんで抱っこすんねん……ッ!? 重たいやろ、離せよッ。首にさぶいぼ立ってんでッ? 寒いくせにッ」
「寒ない。ほんまはお姫様抱っこしたかったんやけど……鍛えるわ。今度しよな」
「今度なんか永久にこんわ! ちょ、ちょうどこ連れてくんッ……!?」
「俺の部屋。セックスしよか」
「なんでやねんッ!」
ズビシッ! と最近で一番キレのあるツッコミを入れる。
こいつはなにを言っているんだ? 頭が寒さでどうにかなったのかもしれない。
風邪を引いたのかとも思ったが、当の本人はそのツッコミもなんのその。
軽やかな足取りでトン、トンと二階の自室に続く階段を登るので、安全性の問題から雪は暴れずにしがみつくしかなかった。
「……いっぱいしよ……」
いや抱きついているわけじゃない。
嬉しそうにされても困る。いっぱいされるのも困る。ブンブンと首を横に振る。
そうこうするうちに直の自室に到着し、インテリアに無頓着な直らしい無地の黒いベッドへ、雪はそっと下ろされた。
足の間に膝を入れられて覆いかぶさるように押し倒され、薄いシャツの隙間から腹筋をなでられビクッ、と震える。
「ま、待ってぇよ! 俺の話聞いてたか? 服の上からでだいぶとさぶいぼたててんのにじかで触ってたら霜焼けになるわ!」
「ならんて……やってみやんなわからんやん。それにさっき舐めた時、アイスみたいでいいなっておもた」
「よくないッ、ッん!」
よくないからやめろ。
そう言おうとした唇は直のそれによってあっさりと塞がれ、熱くヌメった舌が閉じた隙間を強引に割り開いて侵入した。
脇腹をなでられつい口を開く。
舌は口内へと進み、逃げ腰な雪の舌を絡みとって弄ぶように吸いつく。
「は、っ……ぅも、ぉ……っ」
上あごをなぞり、舌の根を擽られた。
離れたかと思えば角度を変えてもう一度塞がれる。ちゅる、ちゅく、と唾液が混濁するやらしい水音が酷い。
口内を蹂躙しながらも直の手は雪の肌をまさぐってジーンズのフロントボタンを外し、下着の隙間に指を潜り込ませた。
「ん、ぁっ……は、ナオ、嫌や、て」
チュプ、と舌が口内から抜き取られると、直の舌と唇の間で濃密な糸が引いてすぐに切れる。
でも、手は止まっていない。
唾液で濡れた口元を拭いもせず、雪は緩く頭を左右に振って泣きそうな声をあげた。
素肌に触れられると、それが本当に冷たいことを相手に知らしめてしまうのだ。
まるで雪のような体を実感されてしまうのがあまりに恐ろしく、雪はくしゃりと表情を歪める。
直の手がピタリと止まった。
覆いかぶさっていたのっそりと体が起き上がると、影が引いて視界が明るくなる。
「なんで? ユキ、嫌な顔と、ちゃう」
「っ……!」
白熱電灯がブゥンと音をたてる静かな部屋でベッドに横たわる雪は、自分をキョトンと見つめる直にカァァ……っと紅潮した。
はだけた衣服。晒された素肌。
キスをしたのは、初めてだった。
その顔すら余すところなく見られている。恥ずかしい。
無言でフイと顔を逸らして逃げると、天然でああ言う直は手を伸ばし、桃色の冷えた頬に優しく触れた。
「や、ヤらへんっ」
「でもキスはできたやん……冷たいのも、気持ちええよ? ユキの口ん中、外っかわよりぬくいから余裕やし……」
「なに言うてんねん普通よりは絶対冷たいやんかっ。いらん、いやや、やめェよ、絶対できへん、無理や、絶対途中で萎えるやん、こ、怖いわっ」
「やっぱり、アホやなぁ」
「今日アホ言い過ぎやッ!」
しみじみと悪意なく罵られ、雪はなでられているほうと逆に顔をフイと背ける。
涙目になった雪としては冗談抜きで、セックスは本当に勇気のいることだ。
触られるといつもビクリと一時固まってしまうのに熱い肌と触れ合って生ぬるい体の中に滾った性器を挿れるか挿れられるかする、未知であり恐怖である行為。
なあなあで恋人同士になった流れで、勢いのままされるものではない。
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