カスパールの咆哮

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 文句を言われるというよりは、切せつと(さと)されると表した方が相応しい真剣さで語り掛けられた。 そうまでされてしまえばもう、大磯としてはただただうなだれるしかなかった。 「はい・・・・・・」  彼は『理詰め』という言葉そのままの的確さで、文字通りに理路整然と大磯を追い詰めていく。 この夏に引退したとはいえ、さすが将棋部の部長を務めただけのことはあった。 ――戦法だけではなく、舌鋒の方もなかなかの鋭さだった。  大磯にとって彼は生徒会会長というよりも、自分も所属している将棋部の部長の印象の方がより強かった。 そして、その方がより親密な関係だと勝手に思っていた。 全く以て一方的に、だったが。  駒運びの如く緻密な彼の言に対する大磯の応えはというと、微妙に調子を変えていたが、先ほどから「はい」の一辺倒だった。 正直、頭の中では全く別のことを考え続けていた。 それしか、考えられなかった。    オレ、今、部長と二人っきりだ――っっ‼  彼、部長の個別指導は、かれこれ一時間近く行われていた。 しかしブック オブ ザ ブック、――つまり『本の中の本』と称される聖書の内容でさえも、大磯の心に居場所を見出すことは出来ない。 一言一句ですら、残っていない。  そこは隙間などないほどに、彼のことでギッシリと埋め尽くされていた。 もう、二年も前から変わらずに、ずうっとずうっと――。
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