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最終下校時刻ギリギリの図書室は、彼が朗読をする聖書の響きだけで満たされている。
『朗ろう』という言葉がピッタリの、澄み切った美声だった。
「・・・・・・そのころ、東の国の博士たちが、イエルザレムに来て、『お生まれになったユダヤの王さまはどこにおいでになるのか。われわれは、その星がのぼるのを見たので、おがみにきた』とたずねた。おい――、三博士のひとり!カスパール‼」
最後の言葉は聖書に記されているものでは、ない。
彼の目の前でうつらうつらと舟をこぐ大磯へと叩き付けられた、彼独自のものだった。
天の妙なる調べの如き彼の声にウットリと聞き惚れ、――結果、いつの間にか眠り込んでしまったらしい。
上げた返事の声が、見事に裏返った。
「ハ、ハイィっっ!」
「――どうやら、役名だけはちゃんと憶えているようだな」
嫌味半分で、彼は感心をする。
聖書から目を上げて、銀縁の眼鏡越しに大磯を見つめた。
明るめの茶色掛かった髪の毛のためか、愛嬌だけはある雑種の犬のように見える。
「全く・・・・・・科白がないとは言え、動きは朗読に則っている。流れを頭に叩き込んでおかないと、大変なことになるぞ?」
「はい」
「他の二人、バルタザール役の吉本とメルヒオール役の池谷の足を引っ張りたくないって、おれに自主練習を申し込んできたのは、他ならぬおまえ自身だろう?大磯」
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