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バルタザール役の吉本に続き、メルヒオール役の池谷、そしてカスパール役の大磯が舞台の真ん中へと歩み出た。
それぞれ、客席の天井を指差す。
「――かれらがヘロデ王のことばにおくられて出発すると、前にのぼるのを見たその星が先に立って、子どものおいでになる所の上にとどまった」
その星は、大磯にとっては彼そのものだった――。
彼が語るのを終えると、メシア役の曽根崎が反対側の舞台袖から出て来た。
これが普通の演劇だったのならば、拍手や歓声が沸き起こるところだろう。
しかし、この朗読劇では静観が強いられているので有り得なかった。
やや身長が低く小柄ながらも、新会長の曽根崎はなかなかどうして容姿の整っている少年だった。
――口が悪い生徒たちは縁がないやっかみ半分で、『生徒会会長は、顔で選ばれる』と噂をした。
それには大磯も、大いにうなずけた。
彼だって、いかにも神経質そうな銀縁の眼鏡を外すと、驚くくらい繊細な素顔が現れる。
曽根崎が舞台の中央に立ち、胸の前で手を組み目を閉じた。
それが合図のように、彼の声が再び語りを始める。
「星をみて大いによろこんだかれらは、その家にはいって、子どもが母のマリアといっしょにおいでになるのを見た」
今はマリア役は立てられていない。
メシアがたった独りで居るだけだった。
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