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『以前は、現会長がマリア役を演じていた』と、大磯は、当の会長である彼自身の口から聞いた。
思わず、「何故、演じられなくなったんですか⁉」と、かなりの勢いで彼に食って掛かってしまった。
そんな大磯にも彼はあくまでも先輩らしく、落ち着いて、
「おれは、その理由を知らない」
と、事実のみを答えた。
――部長は、いつ如何なる時にでも誠実なのだと、大磯は感心した。
吉本が池谷が、最後に大磯が順番にひざまずく。
ひざまずいても、大磯の身長は他の二人を大きく抜きん出ていた。
そして、あるはずの宝物をそれぞれ両手で掲げる。
以前は宝物の小道具もあったそうだが、あまりにも安っぽかったので用いなくなったそうだ。
黄金はともかく、香料の乳香や没薬と言われても、大抵の生徒たちには馴染みがない。
黒羊である大磯には、なおのことだった。
黄金を捧げるカスパールに選ばれてよかった。と、大磯は心から思う。
三種の宝物の中では一番想像がし易かったし、――そして何よりも、部長も副会長の時には『カスパール』だった。
これが一番の理由だった。
「将棋部枠かよ」と、これまた口が悪い生徒に陰口を叩かれもした。
しかし、それを耳にした部長は、
「あぁ、『金』だから、あながち無関係でもないかも知れないな」
と、言ったものだ。
いつもの、静かで平らかな口調だった。
結局、大磯には冗談だか本気だかは分からなかった。
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