カスパールの咆哮

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 ちなみに会長はけして、『メシア』とは呼ばれない。 ――さすがにそれは不敬(やりすぎ)だと見做されているからだった。  朗読『劇』と称してはいるが、朗読に合わせて動作をするだけなので科白(セリフ)の発声はしない。 しかし、それだけに動作の一つひとつを理解して、朗読と合わなければならなかった。 そこが大磯の、一番の悩みどころだった。  劇の発表は、救いの王に仕えるが如く会長を支えるという、副会長らの――生徒会の決意表明に他ならなかった。 大磯も、新たに会長へと選出された曽根崎を(たす)けるのには、何の異もなかった。  大磯と同学年の曽根崎は、一年生の時に『没薬(もつやく)のメルヒオール』に選出された。 次期会長は慣例により、現副会長らの中から選出される。 今回は、曽根崎が選ばれた。  所詮は、誰が『メシア』に選出されたとしても同じことだった。 現会長である部長に、次期の副会長である大磯が黄金を捧げることは出来なかった。  あと一年早く、副会長に選ばれていれば――!  しかし、それは有り得なかった。 一般生徒、白羊の中でも、高等部からの受験組という黒羊の大磯が、生徒会に入れただけでも奇跡だった。 彼を面白半分で推薦した級友(クラスメイト)たちも、神の大胆なご計画に度肝を抜かれたものだった。
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